無線LAN のセキュリティと WPA3

Wi-Fi の暗号化方式は、WEP, WPA, WPA2 と強化されてきました。現在の標準は WPA3 です。Wi-Fi 6E / 7 で使える 6GHz 帯では WPA3 (または OWE) が必須で、WPA2 では接続できません。

この記事では、WPA3 のセキュリティモード、WPA2 の弱点を補う SAE 認証、管理フレームを守る PMF を、図を使って説明します。

  • セキュリティモードの種類
  • WPA2-Personal の弱点と、SAE による改善
  • SAE 認証と 4-Way Handshake の流れ
  • PMF による管理フレームの保護
  • 用途ごとの設定の考え方

セキュリティモードの種類

WPA3 には、用途に応じていくつかのモードがあります。

WPA3 Personalパスワードで接続する方式。WPA2 の PSK (Pre-Shared Key) に代わり、SAE (Simultaneous Authentication of Equals) で認証します。
WPA3 Enterprise802.1X / RADIUS サーバーで、ユーザーや端末ごとに認証する方式。
OWE (Opportunistic Wireless Encryption)パスワードなしで、通信だけを暗号化する方式。「Wi-Fi Enhanced Open」とも呼ばれ、ゲスト用ネットワークに向いています。
WPA2/WPA3 (移行モード)WPA2 と WPA3 の端末を、同じ SSID で受け入れる方式。古い端末をつなぎながら、対応する端末は WPA3 で接続できます。

6GHz 帯で使えるのは、WPA3 と OWE だけです。移行モード (WPA2/WPA3) は、2.4GHz・5GHz 帯で使います。

WPA2-Personal の弱点と SAE

WPA2-Personal は、パスワード (PSK) から作った鍵を使い、4-Way Handshake で暗号鍵を決めます。このやり取りを傍受されると、攻撃者は手元でパスワードの候補を次々に試す「オフライン辞書攻撃」ができます。弱いパスワードはすぐに割り出され、過去に傍受した通信まで復号されてしまいます。また、鍵の再インストール攻撃 (KRACK:Key Reinstallation Attack) の対象にもなりました。

WPA2-Personal と WPA3-Personal の、傍受に対する強さの違い

WPA3-Personal では、4-Way Handshake の前に SAE でお互いを認証し、PMK (Pairwise Master Key) を作ります。SAE のやり取りを傍受してもパスワードは割り出せず、試すには毎回 AP と実際にやり取りする必要があります。さらに、接続ごとに異なる PMK を使うため、あとでパスワードが漏れても、過去の通信は復号できません (前方秘匿性、forward secrecy)。

SAE 認証と 4-Way Handshake の流れ

SAE は、端末と AP が対等な立場で、同じパスワードを知っていることを証明し合う認証方式です (Dragonfly 鍵交換)。Commit と Confirm を2往復して PMK を作り、そのあとアソシエーションと 4-Way Handshake に進みます。

  • SAE Commit / Confirm:パスワードそのものは送らずに、お互いが同じパスワードを知っていることを確かめ、PMK を作ります。
  • Association Request / Response:端末が対応する暗号方式 (RSN IE:Robust Security Network Information Element) を伝えて接続します。
  • 4-Way Handshake:PMK と、両者が出し合う乱数 (ANonce, SNonce) から、通信を暗号化する PTK (Pairwise Transient Key) を作ります。③ では、ブロードキャスト用の鍵 GTK (Group Temporal Key) も届けます。
SAE 認証、アソシエーション、4-Way Handshake のシーケンス

PMF (Protected Management Frames, 802.11w)

接続や切断の通知などの管理フレーム (management frame) は、WPA2 までは保護されていませんでした。そのため、攻撃者が AP になりすまして偽の切断通知 (Deauthentication) を送ると、端末は接続を切られてしまいます。これを悪用すると、端末を偽の AP に誘導する中間者攻撃 (MITM:Man-in-the-Middle) にもつながります。

PMF は、ユニキャストの管理フレームを暗号化し、改ざんを検知できるようにして、なりすましによる切断を防ぎます。

PMF の有無による、偽の切断通知への耐性の違い
  • WPA3 では PMF が必須です。WPA2/WPA3 移行モードでは、対応する端末だけが使う「任意」にするのが一般的です。
  • 不正 AP の検知 (Rogue AP Detection) と組み合わせると、なりすまし対策がより確実になります。
  • 古い端末の中には、PMF を有効にした SSID に接続できないものがあります。

用途ごとの設定の考え方

新しく作る SSIDWPA3 Personal (6GHz 帯を使うなら必須)
古い端末が残る環境2.4GHz・5GHz 帯は WPA2/WPA3 移行モード、6GHz 帯は WPA3 のみ
社員用・業務用WPA3 Enterprise (802.1X / RADIUS)
ゲスト用OWE (非対応の端末向けに、OWE 移行モードを併用)

まとめ

  • 6GHz 帯 (Wi-Fi 6E / 7) を使うなら、WPA3 か OWE が必須。
  • WPA3-Personal の SAE は、オフライン辞書攻撃を防ぎ、前方秘匿性で過去の通信も守る。
  • PMF は、なりすましによる切断を防ぐ。WPA3 では必須。
  • 古い端末が残る間は移行モードを使い、少しずつ WPA3 のみに切り替えていく。
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