IPSルールの概要

UDM Pro (UniFi OS、Network 10.6.106、CyberSecure スタンダード=無料版)のIPS (侵入防止システム)が実際に読み込んでいるルールを取り出し、重大度・確度・作成年・カテゴリ別に集計して、どれだけ今の環境で役に立つのかを分析した資料です。

管理画面に表示されるシグネチャ総数は33,185件です。このうち Suricata が実際に読み込んでいる /run/ips/rules/suricata.rules の alert / drop / reject / pass 行、33,148件を集計の対象としました。

33,148

読み込み済みルール

26.3%

古い・今の環境では意味が薄い (8,734件)

12.0%

重大度 Critical (3,990件)

86%

Critical のうち2023年以降に作成

結論: ルールの約4分の1は、ActiveX、古いPHPアプリへのSQLインジェクション、もう活動していないマルウェアなど、今のネットワークではほとんど発火しないものです。一方で残りの4分の3は2018年以降の攻撃や現役マルウェアの通信が対象です。

特に Critical は、ほとんどが2024〜2026年の情報窃取マルウェア (Lumma Stealer)や偽ブラウザ更新 (SocGholish/TA569)の C2 (指令サーバー)通信の検知です。社内の端末が感染していないかを見つける用途なら、無料版でも十分に役立ちます。

重大度と確度

重大度 件数 割合
Major26,71080.6%
Critical3,99012.0%
Informational1,8045.4%
Minor5231.6%
Unknown1210.4%
確度 件数 うち Critical
High20,524 (61.9%)3,620
Medium9,434 (28.5%)338
Low915 (2.8%)4
未設定2,275 (6.9%)28

ET (Emerging Threats)はほとんどのルールを Major に分類しているため、Major というだけでは重要度の目安になりません。区別に使えるのは Critical と Informational です。

「Critical かつ確度 High」のルールは3,620件あります。これに当たったアラートは誤検知の可能性が低く、最優先で調べる価値があります。

作成年と更新年

年 作成 最終更新
2008800
–
20105,723
–
2011889
–
2012589
–
20131,018
–
2014778
–
2015894
–
2016637
–
2017713
–
20181,058
–
20191,290
1,061
20201,708
6,746
20211,870
937
20222,102
995
20232,138
1,144
20243,349
13,406
20255,007
4,581
20262,585
4,278

作成年で見ると、2015年以前が10,691件 (32.3%)、2016〜2022年が9,378件 (28.3%)、2023年以降が13,079件 (39.5%)です。2010年7月30日付けのルールが特に多いのは、ET が旧ルールセットを取り込んだ日付のためです。

更新年の2020年と2024年の山は、メタデータを一括で書き換えた跡と見られます。「更新が新しい=今も有効」とは言えないので、鮮度は作成年で判断しました。ただし TOR と CINS (IPアドレスの評判リスト)は毎日更新されていて、作成年は古くても現役です。

カテゴリ別

ルールのメッセージ先頭に付くプレフィックス (例: ET MALWARE)でカテゴリを分けました。

カテゴリ 件数 2015年以前 2023年以降 Critical 内容
ET MALWARE19,2992,33710,8793,522感染端末から C2 への通信。DNS問い合わせ (6,566件)や TLS SNI (4,543件)でドメインを照合するものが中心
ET WEB_SPECIFIC_APPS6,0804,5751,34015個別のWebアプリへの攻撃。75%は2010年前後のマイナーなPHP/ASPアプリへのSQLインジェクションやファイル読み込み攻撃
ET EXPLOIT1,661205298101ネットワーク機器やサーバーの脆弱性を突く攻撃
ET MOBILE_MALWARE1,14692331264Android/iOS のスパイウェアやバンキング型マルウェア
ET TOR80080000Tor リレーのIPアドレスリスト (Informational、毎日更新)
ET WEB_SERVER69237810077Webサーバーへの攻撃、Webシェルへのアクセス
ET ATTACK_RESPONSE67973724侵入された後に出る応答 (攻撃ツール Havoc/Sliver の TLS 通信が429件)
ET WEB_CLIENT475189182ブラウザなどクライアントへの攻撃
GPL (全種)86986900Snort 時代の旧ルール (NETBIOS 356件、SQL 190件など)
ET CINS29929900評判の悪いIPアドレスのリスト (毎日更新)
ET USER_AGENTS / SCAN550––1不審なユーザーエージェント、スキャン (Mirai系が中心)
ET ACTIVEX18418400Internet Explorer の ActiveX の脆弱性
その他414––4P2P、DOS、INFO、SHELLCODE など

ルール本体の /etc/idsips/rules/ には UBIQUITI_RULES / UBIQUITI_CUSTOM というファイルもありますが、読み込まれているルールのメッセージに UBIQUITI で始まるものは1件もありませんでした。無料版で実際に効いているのは、ET Open と GPL のルールと見られます。

分類 (classtype)の上位は、trojan-activity (9,492件)、domain-c2 (7,123件)、web-application-attack (5,978件)、command-and-control (3,567件)、attempted-admin (2,009件)です。

古いルールの割合

次の基準で上から順に判定し、1件のルールは1つの区分にだけ入れました。

区分 判定基準 件数 割合 意味が薄い理由
廃れたクライアント技術ET ACTIVEX、またはメッセージに ActiveX / Internet Explorer / Flash / Shockwave / RealPlayer / QuickTime / Windows XP などを含む3100.9%IE や Flash はサポートが終わり、実行環境がもうない
GPL 旧ルールGPL で始まるものすべて8692.6%2000年代の Snort ルール。6割が Informational
古いWebアプリの脆弱性WEB_SPECIFIC_APPS のうち2015年以前に作成4,54713.7%無名のCMSなどが対象。公開Webサーバーがなければ発火する機会がない
活動を終えたマルウェアMALWARE / MOBILE_MALWARE のうち2015年以前に作成2,4127.3%Zeus の派生などが対象。C2 ドメインもほぼ失効している
古いCVE・古い攻撃2015年以前の CVE、または EXPLOIT / WEB_CLIENT / WEB_SERVER / P2P などで2012年以前に作成5961.8%パッチが当たっているのが普通
合計8,73426.3%

残りは次のとおりです。

  • IPアドレスの評判リスト (TOR / CINS): 1,099件 (3.3%)。作成は古いものの毎日更新されている現役のルールです。
  • 最近のドメイン指標: 2023年以降の MALWARE のうち、DNS・SNI・証明書・ドメインで照合するもの。8,851件 (26.7%)。今は有効ですが、寿命は数か月程度です。
  • その他の現役ルール: 振る舞いや脆弱性を検知するもの。14,464件 (43.6%)。

「意味が薄い」8,734件の重大度の内訳は、Major 7,779件、Informational 635件、Critical 153件です (Critical はほとんどが古いマルウェア)。基準を緩めて「2015年以前に作成されたもの全部 (TOR・CINS を除く)」とすると9,592件 (28.9%)、厳しくして ActiveX 系と GPL だけにすると1,179件 (3.6%)になります。

有用なルール

情報窃取マルウェア Lumma Stealer
Critical 1,997件

Critical 全体の半分を占めます。2025〜2026年に登録された Lumma の配布元や C2 のドメインを、TLS SNI と DNS 問い合わせで検知します。Lumma はブラウザに保存されたパスワード、Cookie、暗号資産ウォレットを盗むマルウェアです。偽のソフト配布サイトや、偽の CAPTCHA で PowerShell を実行させる「ClickFix」という手口で広がっています。社内のPCがこのルールに当たったら、感染している可能性が高いと考えてください。

SocGholish / TA569
Critical 約720件

Gholoader の C2、中継サーバー、SocGholish のドメインを検知します。改ざんされた正規のサイトに「ブラウザを更新してください」と表示させてマルウェアを入れさせる手口で、ランサムウェアの侵入の入口によく使われます。

遠隔操作ツール・バックドア
RAT・C2 フレームワーク

Gh0st/PCRat 系 (Critical 99件)、TrustConnect RAT、BackConnect、IcedID、Pupy などです。ATTACK_RESPONSE には攻撃ツール Havoc/Sliver の TLS 通信を検知するものが429件あります。どれも端末が遠隔操作されている兆候なので、優先して対応すべきです。

モバイル
Critical 264件

iOS の Bahamut、NSO Group のスパイウェア (Pegasus 系)、Android のバンキング型マルウェア (GoldDigger、Gigabud)、Spy.Agent などです。社用スマートフォンを Wi-Fi に接続している環境で役に立ちます。

ネットワーク機器・境界製品への攻撃 (2018年以降に作成されたもの)
対象 ルール数
Mirai 系 IoT ボット119
D-Link116
Cisco84
Netgear / Zyxel / TP-Link82
Log4j (Log4Shell)78
Fortinet51
Ivanti / Pulse Secure46
SonicWall43
Citrix NetScaler41
VMware40
Microsoft Exchange31
QNAP / Hikvision / Dahua31

VPN装置、NAS、ネットワークカメラ、ルーターへの攻撃です。ポートを開放していたり VPN を外部に公開していたりする場合は、外からのスキャンや攻撃を検知できます。社内の IoT 機器が Mirai に感染してスキャンを始めた場合も見つけられます。

侵入済みサーバーの兆候 (WEB_SERVER の Critical 77件)

Webシェルやメール送信スクリプトへのアクセス、改ざんされたPHPサイトからの通信を検知します。社内にWebサーバーがある場合に意味があります。

運用上のポイント

ポイント 内容
古いルールを外す効果は小さいSuricata は通信の中身で事前に絞り込むため、発火しないルールの CPU 負荷はわずかで、誤検知もほとんど出ません。UniFi ではカテゴリ単位でしか切り替えられないので、無理に外す必要はありません。
外す価値があるとすれば公開Webサーバーがない場合の Webアプリ系 (WEB_SPECIFIC_APPS の75%は2010年前後のもの)と ActiveX です。ただし新しい Ivanti や Fortinet のルールも同じカテゴリに入っているので、まとめて外すと損をします。
Tor は Informational800件あります。ブロックするとプライバシー系のアプリが動かなくなることがあるので、検知だけにしておくのが無難です。
アラートを見る順番Critical かつ確度 High、MALWARE / MOBILE_MALWARE の Major、EXPLOIT、その他、の順に見れば十分です。
ドメイン指標は鮮度が大事有用なルールの多くは寿命の短いドメインのリストです。シグネチャの自動更新が止まると、数か月で効き目が大きく落ちます。

集計方法: suricata.rules から SID / classtype / signature_severity / confidence / created_at / updated_at / msg を抜き出して集計しました (2026年10月時点)。区分はメッセージに含まれる単語で判定する簡易なものなので、件数には数%程度の誤差があります。

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